
日本の音楽シーンでは、「シンガーソングライター」と呼ばれる自分で作詞作曲までこなす歌手が少なくなっています。
90年代後半から00年代半ばまではミュージックシーンを席捲していたのに、一体どうして近年は少ないのでしょうか?
私は実は昔、シンガーソングライターをやっていたものでして、当事者的視点からその要因を分析してみたいと思います!
カバー曲に頼り過ぎかも?
「育たない」要因の最たるは、これではないかと感じています。
私が路上ライブなどやっていた頃は、Youtubeで配信するという文化はありませんでした(笑)
路上ライブは何かと大変ですが、どの駅にも数人は路上ミュージシャンがいたものです。彼らはもっぱらシンガーソングライターで、自分で作詞作曲する人たちばかりでした。自分で何曲も作詞作曲できる人が、当時は無数にいたのです。
今、Youtubeには、「シンガーソングライター」という肩書きのもとに音楽を発信する若者が大勢いますよね。しかし、どうも彼女たち、持ち歌が3~4曲しかなかったりします。
すでにフォロワーが10万人もいて、スパチャでは結構な金額を稼いでいて、立派な機材を使って歌っています。表現活動を始めて4~5年は経っている、というふうですが、それでもオリジナル曲が3~4曲・・・。
これはあまりにも少ないです!
シンガーソングライターになるなら、少なくとも年間15曲くらいは書ける必要があります。アルバム1枚分くらいは楽曲が必要ですからね。
当時、メジャーデビューを志した私たちは、「コンスタントに曲が書けないと話にならない」と言われて育ちました。「年間20曲はいるよ」「デビュー前に50曲のストックは用意させられるよ」と言われました。
だから、歌やギターの練習だけでなく、「曲作り」というものの練習にも膨大な時間を注ぎました。
「シンガーソングライター」の練習時間って、ものすごい量です!
結局、練習したから曲が書けるのです。
今の若い人たちは、曲作りの練習が少なすぎるのではないかと察します。
それは、自主活動をしているため、「たくさん曲を書きなさい」と叱咤する先生がいないからでしょう。
そして、カバー曲を「歌ってみた」することでなまじファンが何万人も付いてしまうために、「自分はもう1人前になってしまった」と錯覚して作曲の練習をしなくなってしまうのではないでしょうか。
自己顕示欲は満たせてしまったし、スパチャ収入も入ってくるので、「作曲できるようになろう!」という反骨心が芽生えにくいのではないかと思われます。
「歌手」として賞賛されることで満足ならそれでよいのですが、「私は自分で作詞作曲した歌をみんなに届けたい!」という志があるなら、それでは不充分ですよね・・・。
人の注目を浴びるだけなら、たしかにオリジナル曲よりもカバー曲のほうがてっとり早いんです。
それは昔のシンガーソングライターの卵もわかっていましたが、彼らは路上ライブではあまりカバー曲を歌わなかったものです。あくまでメインはオリジナル曲でした。
それは、「自分で作った曲をみんなに届けたい!」というこだわりが強かったゆえでしょう。
ハングリー精神が足りず、だから作曲の努力も足りていない、というシンプルな要因が、最重要事項としてありそうです。
ルックスが良すぎるから(笑)
作曲の練習が疎かになってしまう要因の1つが、「ルックスが良すぎる」ということなのではないかと察します(笑)
近年は、美男美女がとっても多いですよね!
上述の「カバー曲頼り」と同じように、かわいい顔で歌っていればそれだけで、大勢のファンが付いてしまいます。あまり上手でなくても褒められます。
するとやはり、自己顕示欲はあっさりと満たされ、ガムシャラに努力しなければという気は起こりづらいでしょう。スパチャやグッズ販売などで、収入もあっさり得られてしまいます。作曲をがんばる必要性がなくなってしまいます。
シンガーソングライターを志す人には、「アイドルなんて邪道よ!」といった感性の人も多いと思うのですが、近年のシンガーソングライターはアイドルふうな売り方でファンを増やしている人ばかり、というフシギなことになっている感じがします・・・。
添削してくれる人がいないのでは?
Youtubeという表現の場が台頭したことで、非常に多くの人が自分の音楽を表現できるようになりました♪
その反面、「オーディションを勝ち残り、プロデューサーに添削を受けて曲を練り上げる」という行程が激減してしまいました。
昔は、作詞作曲が出来てもあまり上手でないなら、お偉いさんに見向きもされず、公共電波に乗ることはできなかったのです。
今は、作詞作曲がそれなりに出来てしまえば、もう世界に向けて発信することが出来てしまいます。だから「添削してもらう」という行程がなく、曲作りの未熟な点を指摘してもらったり改善したりすることが、あまりないのでしょう。
ボカロPに迎合してしまった・・・
自分の曲をYoutubeで広く発信する、というアクションは、シンガーソングライター志望者よりも、ボカロPと呼ばれるシンセ・コンポーザーが先駆けました。
ボカロPたちもまた、オーディションや添削というプロセスを経ずに、好きなように作って発信する、という感じでした。初音ミクのアニメーションや萌えボイスに乗ったその楽曲たちは、正直、あまりクオリティが高くなくても人気を博するのでした。
ボカロPが厄介なのは、「自分は歌わない」ということです。自分が歌わないので、作ったメロディがボーカリストにとって歌いやすいかどうかを、あまり気にしていません。
だからボカロP系の楽曲たちは、音符の数が多すぎるとても難解な曲ばかりになってしまいました。
しかし、初音ミクというキャッチーなキャラクターが彼らの楽曲を牽引して人気を博してしまったので、「その難しいメロディをがんばって歌いあげるのがカッコいい」という新たな歌ってみた文化が醸造されてしまったのです。
そうして非常に難解なメロディの楽曲動画が氾濫すると、音楽クリエイターたちは、「今はこういうゴチャゴチャした曲が人気なのだな」と考えて、シンプルなメロディを好む・作れる人たちさえも、音符数の多い難解なメロディばかり作るようになってしまいました・・・。
これにより、シンガーソングライターの「卵」だけでなく、すでにプロデビューしているシンガーソングライターも、作詞作曲を行うバンドマンたちも、やたらと音符数の多いちょっと完成度の低いカンジの曲ばかり作るようになってしまいました・・・。
歌手になりたいのか?アイドルになりたいのか?シンガーソングライターになりたいのか?
カバー曲の「歌ってみた」動画をバンバンアップして人気者になるのも、悪くないと思います^^
ルックスを活かしてアイドルのようにスパチャを稼ぎまくるのも、悪くないと思います。
しかし、「シンガーソングライターになりたい!」「自分らしい曲をみんなに届けたい!」というコンセプトで活動しているなら、今のあなたの活動内容で良いのかどうか、見直したほうが良いかもしれませんね・・・。